大判例

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大阪地方裁判所 昭和26年(ワ)1295号 判決

原告 大西卯之松

被告 石正勉

一、主  文

被告は原告に対し大阪市東成区深江中六丁目五番地上木造瓦葺二階建住宅四戸建一棟の内東端の一戸を明渡すべし。

被告は昭和二十六年三月一日より右家屋明渡済に至るまで一ケ月金五百七十円の割合による金員を支払うべし。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文と同旨の判決及仮執行の宣言を求めその請求原因として原告は昭和十年頃その所有の大阪市東成区深江中六丁目五番地所在の木造瓦葺二階建住宅四戸建一棟の内東端の一戸を訴外白石則昌に賃貸していたが同人は先年死亡したので妻奈美子に右家屋を賃貸し奈美子は弟の被告と共に右家屋に居住していた。ところが昭和二十五年末頃同人が死亡したことが分つたので原告は本件家屋に居住する被告に対し明渡を求めたところ被告は近日中に家を見付けて移転するからしばらく猶予して貰い度いと言いながらその後家を探す様子もなく現在迄之を占拠しているもので何等占有すべき権限にもとずくものではないから、被告に対し右家屋の明渡及昭和二十六年三月一日より明渡済に至るまで一ケ月金五百七十円の割合に依る損害金の支払を求めると述べ被告の抗弁事実を否認し原告は被告の主張する家族共同体と賃貸借を結んだものではなく白石則昌死亡後あらためて白石奈美子個人に対し本件家屋を賃貸したもので被告は単にその家族にすぎない以上奈美子の賃借権をはなれて独立に本件家屋を占有する権限を有しない。賃借権は相続性を有しないものであるから奈美子の有する賃借権がその父である石正豊次郎に移転する理由なく従つて被告が賃借権を取得することはできないと述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め答弁として原告主張事実中訴外白石則昌が本件家屋を賃借していたこと、同人の死後その妻奈美子が賃借人となり奈美子の弟である被告と共に右家屋に居住していたが奈美子はその後死亡したこと、家屋の賃料が一ケ月五百七十円で昭和二十六年二月分まで支払済であることはみとめるがその余の事実は否認する。奈美子は昭和二十五年十二月四日死亡したが同人の本件家屋に対する賃借権は相続人である父石正豊次郎に移転し被告は同人の賃借権にもとずきその承認によつて本件家屋を使用しているもので不法占拠ではない。又家屋の賃貸借は賃貸人と賃借人間の個人契約の外観をそなえているが、その実体は賃貸人と賃借人及その家族をふくむ生活協同体である家団との間に成立するものと解すべきであり、被告は昭和二十二年二月以来賃借人たる奈美子の事実上の養子として同人を扶養してきたものであるから、賃借人たる奈美子の死後に於ても右家団の一員として本件家屋を使用する権利を有するものである。仮に右主張が理由ないものとするも、奈美子の事実上の養子として本件家屋を使用していた被告が、同人の死後もその居住を継続すべきことは原告の予期すべきことで殊に相当の収入があり、未だ一回の賃料を延滞したこともなく、家屋の使用方法についても非難すべき点のない被告に対し、被告が若年者であるというような理由の下に家屋の明渡を求めることは権利の濫用であると述べた。<立証省略>

三、理  由

原告がその所有に係る大阪市東成区深江中六丁目五番地所在木造瓦葺二階建住宅四戸建一棟の内東端の一戸を訴外白石則昌に賃借していたが、同人の死後その妻奈美子に於て之を賃貸していたが、奈美子の死後その弟である被告が本件家屋を占有していることは当事者間に争がない。被告は奈美子の賃借権を相続人として取得した石正豊次郎の承認にもとずき同人の賃借権を行使しているものであるから、本件家屋を使用する権利があると主張するので此の点につき判断するに、凡そ一身に専属する権利を除き凡ゆる財産的権利は相続の対象となるもので、賃借権といえどもその例外をなすものでないから、奈美子の有する賃借権が石正豊次郎に相続されることは当然である。しかしながら同人に於て本件家屋に居住してその賃借権を行使せず、第三者たる被告が賃借人の同意の下に賃借家屋を使用するためには、賃貸人の承諾を得なければならないと解するのを相当とする。之は転貸に賃貸人の承諾を要することを規定する民法第六百十二条の規定に照らし当然である。そして被告が本件家屋を使用するにつき、原告の承諾を得ていることは被告提出の証拠によつて之をみとめることができないから被告の右主張は理由がない。

次に被告が奈美子の事実上の養子であり、同人を扶養して居たことは之を認むるに足る証拠がないばかりでなく(証人石正豊次郎及白石彌作の証言はたやすく措信しがたい)仮りに被告の主張する通りであるとしても、事実上の養子に相続権がないから、被告が奈美子の賃借権を相続する理由はなく、更に家団なるものに法人格をみとめていない現行法の下に於て、賃借人が死亡した後その家族にすぎない被告が家団の有する賃借権を行使し、家屋を使用する権限を有するものとは考えられない。従つて被告の之の点に関する主張も理由がない。

最後に被告の権利濫用の抗弁につき考えて見るに右認定の如く、被告に本件家屋を使用すべき権限のない以上原告が所有権にもとずいて家屋の明渡を求めることは、権利の行使が賃借人を苦しめるためのみの目的に出ている等特殊の事情がない限り権利の濫用とはいえない。そして右特別の事情は被告の立証によつてみとめられないから、被告の右抗弁も又採用しがたい。仍て被告に対し本件家屋の明渡及昭和二十六年三月一日より明渡済に至るまで一ケ月金五百七十円の割合による賃料相当の損害金の支払を求める原告の請求を正当として認容し、訴訟費用の負担に付民事訴訟法第八十九条を適用し尚仮執行の宣言は相当でないと認め、之を付さないことにし主文の通り判決する。

(裁判官 原田修)

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